哂う豚

あえて火中の栗を拾う

ブランコは血の匂い

f:id:levi2014:20140522222831j:plain

雨上がりの公園で、ブランコに走り寄る。

服が濡れるのは嫌だから、立ち漕ぎで。

キュルーコ、キュルーコと鉄の軋む音をたて、雨水を飛ばしながら世界を揺らす。

思えば、人生で始めての乗り物操縦はブランコだった気がする。記憶にないけど。

 

ブランコをつくった人は天才だと思う。

何が楽しいのかさっぱりわからないけど、たしかに楽しい。

おともだちのうんこちん(仮名)は、ちっちゃい頃、ブランコに取り憑かれて、1日中、延々とこぎ続けた結果、おしりに大人になっても消えない青あざができちゃったんだって。

 

どう見ても、蒙湖斑(もうこはん)!

「違うの、これは蒙湖畔じゃなくて、ブランコの乗りすぎでっ」

って、付き合う彼氏が変わるごとに必死の言い訳。可愛いやつよ。

 

          ★

 

ブランコを漕いだ後、手のひらのを嗅ぐと、血のにおいがした。

これには、たいていの人が同意してくれた。

「鉄は血のにおいだね」

たくさんの人が言う。

 

わたしには目が痒いとき、目の中に指をつっこんで、ぐりぐりこする癖があったのだけど、目の中をこすった後に指を嗅ぐと、やっぱり血のにおいがした。

これには、誰ひとり同意してくれなかった。

「目玉は血のにおいだね」

わたしだけが言う。

 

大人になってから、ためしに目の中に指をつっこんでぐりぐりやってから、においを嗅いでみた。びっくりした。無臭なんだ。

じゃあ、子供の頃ににおっていた、あの血のような鉄のようなブランコのようなにおいは何?

まぼろしだったんだろうか。

 

子供のときにだけ、見えたり聴こえたり匂ったりするものってあるよね。

よくあるところだと、家の柱の木目のなかに、恐ろしい顔をしたおっさんが見えたり。

 

          ★

 

ところで、鉄も無臭だって知ってた?

においを感じるということは、化合物が揮発して、鼻の感覚細胞に付着するってことだけど、鉄の沸点は1535度だって!

鉄のにおいを嗅ごうと思ったら、1535度の灼熱地獄のなかで、鉄の揮発を待たなきゃならない。冷静に考えてみたら、そういうことなんだよね。

じゃあ、皆が「鉄のにおい」だと感じている、あのにおいは何?

やっぱりまぼろし?

 

調べてみたら、こんなサイトがあったよ。

鉄のにおいの正体 : 有機化学美術館・分館

こういう疑問に真剣に挑むひとたちがいてくれることに、心安らぐ雨の夜なのでした。

おしまい。